口を開けると顎が痛む、あごの関節でカクッと音がする。こうした不調を感じて、原因が気になっている患者様は少なくありません。
当院でも、「なぜ顎関節症になるのか」というご相談をいただくことがあります。原因は一つではなく、いくつかの要因が積み重なって起こることがほとんどです。
本記事では、顎関節症を引き起こす代表的な5つの要因を、噛み合わせを専門的に診てきた立場から整理し、予防のヒントとあわせてお伝えします。
顎関節症とは?
顎の不調が起こる仕組み

顎関節症は、あごの関節と、あごを動かす筋肉に起こる不調をまとめた呼び名です。
一つの病気を指すのではなく、いくつかの状態の総称として使われます。20〜40代の方に多いとされますが、年齢や性別を問わず起こります。
顎関節と咀嚼筋のはたらき
あごの関節(顎関節)は、耳のすぐ前にあります。口を開け閉めするたびに動く、体の中でもよく使う関節の一つです。その関節と、噛むときに働く筋肉(咀嚼筋)が連携して、話す・食べるといった動きを支えています。
関節の中には、関節円板というクッションの役割をする組織があります。骨と骨が直接ぶつからないよう、動きをなめらかにする部品です。ここに負担が重なると、痛みや音、開けにくさといった症状につながります。
私たちは、1日に何百回も口を開け閉めしています。食事や会話のたびに動くため、あごの関節は休む間が少ない部位です。だからこそ、日々の小さな負担でも、積み重なると影響が出やすいという特徴があります。
誤解されやすいポイント
顎関節症というと、噛み合わせが原因と思われがちです。噛み合わせも要因の一つではありますが、それだけで起こるわけではありません。
近年は、日々の癖や生活習慣、ストレスなど、複数の要因が重なって生じると考えられています。原因を一つに決めつけないことが、対策の出発点になります。
言い換えると、原因が一つではないからこそ、対策も一つではありません。噛み合わせだけを直そうとしても、食いしばりの癖が残っていれば負担は続きます。
いくつかの要因を一緒に見直していく視点が、遠回りを避ける助けになります。
顎関節症の主な原因

結論からお伝えします。顎関節症の多くは、あご周りへの負担が積み重なって起こります。ここでは、代表的な5つの要因を見ていきます。
歯ぎしり・食いしばり
見逃せないのが、歯ぎしりと食いしばりです。寝ている間の歯ぎしりや、日中の無意識の食いしばりは、あごに大きな力をかけ続けます。
とくに、上下の歯を軽く触れさせたままにする癖(TCH)は、自分では気づきにくいものです。歯を接触させている時間が長いほど、筋肉と関節は休まりません。
本来、上下の歯は、食事や会話のときにだけ触れ合い、それ以外は少し離れているのが自然な状態です。
ところが、集中しているときや緊張しているとき、無意識に噛みしめている方は少なくありません。睡眠中の歯ぎしりの力は、起きているときの噛む力を上回ることもあるとされ、あごへの負担は見た目以上に大きくなります。
ストレスと精神的な緊張
ストレスは、食いしばりや筋肉の緊張を招きます。気を張っていると、無意識にあごへ力が入りやすくなります。忙しい時期に症状が強くなる方が多いのも、この関わりが背景にあるとされています。
心と体は、思っている以上につながっています。緊張状態が続くと、眠りが浅くなり、睡眠中の歯ぎしりが増えることもあります。
ストレスそのものをなくすのは難しくても、休息の時間を意識してとることが、あごの緊張をゆるめる助けになります。
生活習慣・姿勢の癖
頬杖をつく、うつ伏せで寝る、片側だけで噛む。こうした日常の癖も、あごの左右のバランスをくずす一因になります。長時間のスマートフォンやパソコンで、うつむいた姿勢が続くことも、首やあご周りの筋肉に負担をかけます。
これらの癖は、一つひとつは小さなものです。けれども、毎日続くことで、じわじわとあごに影響していきます。
自分ではなかなか気づきにくいため、家族に「頬杖をよくついているよ」と指摘されて初めて気づく、ということも少なくありません。
噛み合わせ・歯並び
噛み合わせのずれや歯並びも、要因の一つです。合わない被せ物や、抜けたまま放置した歯があると、噛む力のかかり方が偏ることがあります。ただし、噛み合わせだけを直せば必ず改善するとは限りません。
外傷・急な負担
あごをぶつけた、大きく口を開けすぎた、硬いものを無理に噛んだ。こうした急な負担が、きっかけになることもあります。
ひとつの大きな原因というより、小さな負担の積み重ねに、こうした出来事が加わって発症する例が多く見られます。
原因をふまえた
予防と対策

原因が積み重なるものである以上、対策も日々の見直しから始まります。ここでは、自分でできることと、受診の目安をまとめます。
自分でできること
まず取り組みたいのが、食いしばりへの気づきです。日中、上下の歯が触れていることに気づいたら、そっと離す。これを繰り返すだけでも、あごの負担は変わってきます。
硬いものやガムを控える、大きなあくびのときに手を添える、頬杖をやめるといった工夫も助けになります。痛みがあるときは、蒸しタオルで温めると、筋肉がゆるみやすくなります。
「歯を離す」と書いた付箋を、パソコンやよく見る場所に貼っておく方法もおすすめです。食いしばりは無意識の癖なので、思い出すきっかけをつくることが、見直しの近道になります。
ただし、痛みが強いときに無理に口を動かす体操などは、かえって刺激になることがあります。自己流で悪化させないよう、迷ったら相談してください。
受診を検討すべきサイン
口が指2本分ほどしか開かない、痛みが強い、音とともに開けにくさが続く。こうした場合は、自己判断で様子を見すぎず、一度歯科にご相談ください。原因を見極めたうえで、その方に合った対策を選べます。
噛み合わせから原因を
見立てる当院の視点

私は補綴(入れ歯や被せ物、噛み合わせ)を専門的に学び、日々の診療にあたってきました。その経験から、顎関節症は一つの原因に決めつけず、噛み合わせ・癖・生活習慣を含めて総合的に見立てることを心がけています。
日本顎咬合学会など、噛み合わせを扱う学会でも、多くの要因が関わることが示されています。当院では、必要に応じて食いしばりの癖や生活習慣まで一緒に振り返り、負担の減らし方を考えていきます。
よくある質問
Q.顎関節症は自然に治りますか?
軽いものであれば、癖の見直しや安静で和らぐこともあります。ただし、原因となる癖が続くと、症状が長引くこともあります。痛みや開けにくさが数日以上続く場合は、自己判断を避けて一度確認されることをおすすめします。
とくに、口が開かない、痛みが強いといった状態は、様子を見すぎないほうが安心です。経過には個人差があります。
Q.歯ぎしりは自分で止められますか?
睡眠中の歯ぎしりを意識で止めるのは難しいものです。
一方、日中の食いしばりは、気づいて離す習慣で減らせることがあります。睡眠中の負担には、マウスピース(ナイトガード)で歯や関節を守る方法もあります。気になる方はご相談ください。
Q.ストレスが原因のこともありますか?
ストレスは、食いしばりや筋肉の緊張を通じて、顎関節症に関わるとされています。忙しい時期に症状が強くなる方は珍しくありません。心身の休息も、あごの負担を減らす一つの手立てになります。
Q.噛み合わせを治せば顎関節症は治りますか?
噛み合わせは要因の一つですが、それだけで決まるわけではありません。安易に歯を削って調整すると、かえって負担になることもあります。
まずは原因を見極め、できるだけ元に戻せる方法から始めるのが一般的です。
噛み合わせの調整が必要かどうかは、癖や生活習慣の見直しで症状がどう変わるかを見てから判断することも多くあります。焦らず順を追って進めることが、遠回りを避ける近道です。
顎関節症の原因は、一つではなく積み重なるものです。心当たりのある癖から、少しずつ見直してみてください。