2026.10.28

妊婦の歯周病と早産リスク、安定期5〜7か月に受けたい歯科健診

「母子手帳と一緒に受診券をもらったので来ました」。妊婦歯科健診で当院を初めて訪れる方の多くが、こうおっしゃいます。

なかには歯周病がかなり進んでいたにもかかわらず、それが早産のリスクと関わることをご存じなかった方もいらっしゃいました。

本記事では、妊娠中に歯周病が悪化しやすい理由と、早産・低体重児出産との関係、妊婦歯科健診を受けるタイミングについて解説いたします。

妊娠中に歯周病が
悪化しやすい理由とは

妊娠中に歯周病が悪化しやすい理由とは

女性ホルモンが歯周病菌と歯茎の両方に影響する

妊娠すると、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌が大きく増えます。

歯周病菌の中には、これらのホルモンを栄養源にして増える種類があることが分かっています。そのため妊娠中は、お口の中でこうした菌が増えやすい環境になります。

さらに、ホルモンの影響は菌だけでなく、歯茎そのものにも及びます。歯茎の血管が広がり、刺激に対して炎症を起こしやすくなります。

菌が増えやすく、歯茎も反応しやすい。この2つが重なることで、普段なら問題にならない程度のわずかな汚れでも、歯茎が赤く腫れたり出血したりしやすくなります。

こうした妊娠中に起こる歯茎の炎症を「妊娠性歯肉炎」と呼びます。妊娠初期から始まることがあり、中期から後期にかけて目立ちやすくなる傾向があります。

妊娠中の女性の多くに、程度の差はあれ歯茎の腫れや出血が見られるといわれます。

歯磨きのときに歯ブラシが赤くなる、歯茎がむずがゆい。こうした変化は、妊娠性歯肉炎の始まりかもしれません。

もともと歯周病があった方の場合、妊娠をきっかけに一気に進行することも珍しくありません。

つわりや食生活の変化で口の中が汚れやすくなる

つわりの時期は、歯ブラシを口に入れるだけで気分が悪くなる方もいます。

食事の回数が増えたり、酸っぱいものや甘いものが欲しくなったりと、食生活も変わりやすい時期です。

歯磨きが不十分なまま食べる回数が増えると、口の中に汚れが残る時間が長くなります。

ホルモンの変化とケア不足が重なることで、歯周病も虫歯も進みやすい環境がそろってしまいます。

唾液がねばつきやすくなるのも、妊娠中によく見られる変化の一つです。

唾液には汚れを洗い流す働きがあるため、そのはたらきが弱まると、歯垢はさらにたまりやすくなります。

妊婦の歯周病と
早産・低体重児出産の
関係

妊婦の歯周病と早産・低体重児出産の関係

歯周病のある妊婦さんは、歯周病のない方に比べて早産や低体重児出産のリスクが高まるという報告が、国内外で複数出されています。

喫煙や飲酒と同じように、歯周病も妊娠経過に関わる要因の一つとして考えられるようになりました。

ここでいう早産とは妊娠22〜36週での出産、低体重児とは出生時の体重が2,500g未満の赤ちゃんを指します。

早産や低体重で生まれた赤ちゃんは、出生後に特別なケアが必要になることもあります。

妊婦さんにとって歯周病対策は、ご自身の歯を守るだけでなく、お腹の赤ちゃんを迎える準備の一つといえるでしょう。

炎症物質が子宮の収縮に影響する仕組み

歯周病で炎症を起こした歯茎では、プロスタグランジンなどの炎症物質が作られます。

プロスタグランジンは、出産の際に子宮を収縮させる働きを持つ物質でもあります。

歯茎で作られた炎症物質や歯周病菌が血液を通じて全身に広がると、子宮の収縮を早めたり、胎盤の働きに影響したりする可能性が指摘されています。

これが、歯周病と早産が関わるとされる主な理由です。

とはいえ、歯周病があれば早産になるというわけではありません。

妊娠の経過には多くの要因が関わるため、あくまでリスクの一つとして捉えていただくのが適切です。

歯周病に気づかない妊婦さんが多い理由

歯周病は、進行しても痛みがほとんど出ない病気です。

妊娠中は歯茎からの出血を「ホルモンのせいだから仕方ない」と考え、そのままにしてしまう方も少なくありません。

臨床の現場では、妊婦歯科健診で初めて歯周病の進行を指摘され、驚かれる方を何人も診てきました。

受診のきっかけは「行くように言われたから」でも十分です。

健診で口の状態を知り、出産までに対策を始められた方も多くいらっしゃいます。

当院にいらした妊婦さんからも、「歯周病と出産が関係するとは知らなかった」という声をよく伺います。

産婦人科の健診に比べると、歯科健診の意味はまだ十分に知られていないのが実情かもしれません。

妊婦歯科健診は
いつ受ける?
安定期5〜7か月が目安

妊婦歯科健診はいつ受ける?安定期5〜7か月が目安

受けるタイミングと健診の内容

妊婦歯科健診や歯科治療に適しているのは、体調が安定しやすい妊娠5〜7か月(16〜27週)ごろです。

つわりが落ち着き、お腹もまだそれほど大きくないため、診療台に座っていても負担が少なくて済みます。

妊娠初期(〜15週)はつわりや体調の変化が大きい時期、後期(28週〜)はお腹が大きくなって仰向けがつらくなる時期です。

その間にあたる安定期は、検診から治療までを落ち着いて進めやすい期間になります。

多くの自治体では、母子健康手帳の交付時に妊婦歯科健診の受診券を配布しており、妊娠中に1回、無料または少ない負担で受けられます。

健診では虫歯や歯周病の有無、歯茎の状態を確認し、必要に応じて歯磨きの指導やクリーニングを行います。

受診券の有無や対象期間は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村の案内をご確認ください。

妊娠中のレントゲンや麻酔、お薬について

妊娠中の歯科治療で多く寄せられるのが、レントゲンや麻酔への不安です。

歯科のレントゲンは撮影範囲が口元に限られ、防護用のエプロンも着用するため、お腹の赤ちゃんへの影響はきわめて小さいとされています。

歯科で使う局所麻酔も、通常の使用量であれば胎児への影響はほとんどないというのが一般的な見解です。

お薬が必要な場合は妊娠中でも使いやすい種類を選び、状況によっては産婦人科の先生と相談しながら判断します。

妊娠初期の段階でもお知らせいただければ、治療内容やお薬の選び方に配慮できます。

受診時に母子健康手帳をお持ちいただくと、妊娠の経過も確認しやすくなります。

つわりの時期でもできる口のケア

つわりで歯磨きがつらい時期は、無理に完璧を目指さなくてかまいません。

次のような工夫で、できる範囲のケアを続けてみてください。

  1. ヘッドの小さい歯ブラシを使い、顔を下に向けて磨く
    奥から前へかき出すように磨くと、つらさが和らぐことがあります。
  2. 歯磨き粉の香りがつらいときは量を減らす
    使わずに磨く、または量を減らす工夫も有効です。
  3. 磨けないときは、水やお茶で口をゆすぐ
    それだけでも口の中の汚れを減らせます。

体調のよい時間帯にまとめて磨くなど、続けやすい方法を優先して大丈夫です。

出産後も続けたい
親子の予防歯科

出産後も続けたい親子の予防歯科

生まれてくるお子様の口の健康にもつながる

生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、虫歯菌はほとんどいないとされています。

虫歯菌の多くは、身近な大人とのスキンシップや食事を通じて、少しずつ移っていくと考えられています。

妊娠中から保護者様自身の口の中を整えておくことは、お子様の口の健康を守る準備にもなります。

当院がマタニティ歯科に取り組み、「マイナス1歳からはじめる予防歯科」を掲げているのも、こうした理由からです。

口育士としてお子様の口の発育に関わる中で感じるのは、保護者様の口への関心が、そのままお子様の習慣につながりやすいということです。

妊娠中に身につけたケアの習慣は、出産後の親子の歯磨きにも生きてきます。

出産前に済ませておきたい治療

出産後はお子様のお世話に追われ、ご自身の歯科受診は後回しになりがちです。

痛みが出てから受診しようとしても、なかなか時間が取れないという声をよく耳にします。

安定期のうちに、歯周病や虫歯の治療を一通り済ませておくと安心です。

妊娠後期に入るとお腹が大きくなり、仰向けの姿勢がつらくなるため、治療の計画は早めに立てておくことをおすすめします。

親知らずが腫れやすい方や、治療途中のままになっている歯がある方は、特に早めのご相談をおすすめします。

授乳期間中も治療は可能ですが、通院の時間を確保すること自体が難しくなりがちです。

よくある質問

Q. 妊娠中でも歯周病の治療は受けられますか?

受けられます。

歯石取りやクリーニングといった基本的な歯周病治療は、妊娠中でも行える処置です。

特に安定期の妊娠5〜7か月ごろは、治療を進めやすい時期にあたります。

体調やお腹の張りに合わせて診療台の角度や治療時間を調整しますので、受診の際は妊娠週数と体調をお知らせください。

お腹が張る、気分が悪くなるなど、治療中に変化があれば遠慮なくお伝えいただいて大丈夫です。

Q. 妊娠初期に歯が痛くなりました。安定期まで待つべきですか?

強い痛みや腫れがある場合は、安定期を待たずにご相談ください。

妊娠初期でも、痛みを和らげる応急処置や、口の中を清潔にする処置は行えます。

痛みを我慢し続けることは、体にとってもストレスになります。

本格的な治療は安定期に入ってから行うなど、妊娠週数に合わせて治療の進め方を調整していきます。

妊娠中であることは、予約の段階でお伝えいただけると準備がスムーズです。

Q. 妊娠性歯肉炎は出産後に自然に治りますか?

ホルモンの影響による腫れは、出産後にホルモンのバランスが戻るにつれて落ち着くことが多いです。

ただし、歯垢や歯石が残ったままでは炎症が続き、歯周病へ進行するおそれがあります。

妊娠中に一度クリーニングを受けて汚れを取り除いておくと、産後の回復もスムーズになりやすいでしょう。

治り方には個人差があるため、産後も一度検診を受けて状態を確認しておくと安心です。

Q. 妊婦歯科健診の受診券を使い忘れてしまいました。

受診券の有効期限や対象期間は自治体ごとに異なるため、まずはお住まいの市区町村にご確認ください。

期限が過ぎていても、症状や状態に応じて通常の保険診療で歯周病の検査や治療を受けることは可能です。

受診券の有無にかかわらず、妊娠中に一度は口の中の状態を確認しておくことをおすすめします。

気になる症状がある方は、妊娠週数をお伝えのうえでご予約ください。