花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど、アレルギーに悩む方は少なくありません。診療中に「歯周病とアレルギーは関係があるのか」と尋ねられることがあり、私自身も臨床の中でこの問題について考えてきました。
本記事では、歯茎の炎症がアレルギーに関わる可能性を、研究で分かっていることと私個人の見解に分けて整理し、アレルギー体質の方に知っていただきたい口のケアまで解説いたします。
歯周病とアレルギーの
関係とは?
いま分かっていること

厚生労働省の報告では、日本人の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患を持っているとされています。これほど身近な病気でありながら、口の中との関わりはあまり知られていません。
アレルギーは体の「入り口」から始まる
アレルギーは、本来は無害な花粉や食べ物のたんぱく質などを、体が「敵」と誤って覚えてしまうことで起こります。この覚え込む段階を感作と呼びます。
感作が起こりやすいのは、皮膚や粘膜といった体の表面のバリアが弱っている場所です。
健康なバリアは異物の侵入を防ぎますが、炎症や傷があると、アレルゲン(アレルギーの原因物質)が体の内側へ入り込みやすくなってしまいます。
花粉症は鼻や目の粘膜、食物アレルギーは腸の粘膜や皮膚が主な舞台です。いずれも、体の外と内の境目で起こる反応といえます。口の中もまた、外の世界と絶えず接している粘膜の一つにあたります。
歯周病との関係はまだ研究段階
歯周病とアレルギーについては、関連を示唆する報告がある一方で、はっきりした結論は出ていません。歯周病がアレルギーの原因になると断定できる段階ではない、というのが正確なところです。
海外では、歯周病と喘息やアトピー性皮膚炎との関連を調べた研究も行われています。ただ、関連があるとする報告と、はっきりしないとする報告が混在しており、評価は定まっていません。
それでも、歯周病の炎症が体に与える影響を考えると、まったく無関係とも考えにくい面があります。ここからは、指摘されている仕組みを順に見ていきましょう。
歯茎の炎症が
アレルギーに
関わる2つの仕組み

結論から言うと、歯周病がアレルギーに関わる可能性として考えられているのは、「炎症を起こした歯茎がアレルゲンの入り口になること」と「慢性的な炎症が全身の免疫に影響すること」の2点です。
傷ついた歯茎がアレルゲンの入り口になる可能性
歯周病が進むと、歯と歯茎の間の溝が深くなり、歯周ポケットができます。このポケットの内側の粘膜は炎症によって薄く傷つき、ただれたような状態です。
中等度から重度の歯周病では、その傷の面積を合計すると手のひらほどの広さになるともいわれます。
健康な歯茎であれば、歯と歯茎の間の溝は1〜2mmほどにすぎません。歯周病が進むと4mm、6mmと深くなり、傷ついた粘膜の面積もそれにつれて広がっていきます。
口の中には、食べ物のたんぱく質や吸い込んだ花粉などが絶えず入ってきます。傷ついた歯周ポケットの粘膜は、こうした物質が体の内側へ入り込む入り口になり得ます。
アトピー性皮膚炎の「経皮感作」と似た考え方
この考え方のヒントになるのが、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係です。
湿疹で皮膚のバリアが弱った赤ちゃんは、皮膚から入り込んだ食べ物のたんぱく質によって、食物アレルギーを発症しやすいことが分かってきました。これを経皮感作と呼びます。
歯周ポケットの傷ついた粘膜も、バリアが弱った皮膚とよく似た状態です。私個人の見解としては、歯茎の炎症を放置することは、アレルゲンが入り込む「すき間」を口の中に開けたままにしておくことに近いと考えています。ただし、この仮説を直接確かめた研究はまだ多くありません。
皮膚の場合は、保湿でバリアを守ることが感作の予防につながると考えられています。同じ発想に立てば、口の中では歯茎の炎症を抑えることが、バリアを守ることにあたるでしょう。
慢性炎症が全身の免疫バランスを揺らす可能性
歯周病の炎症が続くと、炎症性サイトカインが歯茎で作られ、血液を通じて全身に送られます。
こうした物質は、糖尿病や動脈硬化との関係で研究が進んできました。アレルギー疾患も体の中の炎症と深く関わる病気であるため、歯周病による慢性炎症が症状の悪化に関わる可能性を指摘する声もあります。
日本歯周病学会でも、歯周病が糖尿病や心臓・血管の病気など、全身の健康と関わることについて情報を発信しています。
アレルギーとの関係はそれらに比べて研究の少ない分野ですが、口の炎症を全身の問題として捉える視点は共通しています。
アレルギー体質の方が
歯科で気をつけたいこと

鼻づまりによる口呼吸と歯茎の乾燥
花粉症やアレルギー性鼻炎で鼻がつまると、どうしても口で呼吸する時間が長くなりがちです。口呼吸が続くと口の中が乾き、唾液による自浄作用(汚れを洗い流す働き)が弱まってしまいます。
特に上の前歯の歯茎は乾燥の影響を受けやすく、腫れや出血が起こりやすい部位です。花粉の季節になると歯茎の調子が悪くなる方は、口呼吸が一因になっていることもあるでしょう。
口を開けたまま眠っている方は、朝起きたときに喉がひりつく、口の中がねばつくといった変化で気づくことがあります。こうしたサインがあれば、耳鼻咽喉科で鼻の治療を受けることが、結果的に歯茎を守ることにもつながります。
歯科金属やお薬のアレルギーは事前に伝える
アレルギー体質の方の場合、歯科治療に使う材料やお薬に反応が出る可能性も考えておかなければなりません。代表的なものが金属アレルギーで、詰め物や被せ物に含まれるニッケルやパラジウムなどが原因になる場合があります。
補綴(被せ物や入れ歯)を専門的に学んできた立場から申し上げると、金属を使わないセラミックやレジン(歯科用プラスチック)など、材料の選択肢は以前より広がりました。
当院では、金属アレルギーが心配な方には材料ごとの特徴や費用をご説明し、患者様ご自身に選んでいただくようにしています。
麻酔薬や抗菌薬、ラテックス(ゴム手袋の素材)でアレルギーを起こしたことがある方も、受診時に忘れずにお伝えください。金属アレルギーは、口の中ではなく手のひらや足の裏など、離れた場所に湿疹として現れることもあります。
原因の分からない皮膚の症状が続く方は、口の中の金属について皮膚科で相談してみるのも一つの方法です。
アレルギーが
気になる方の
歯茎ケアと受診の目安

歯茎を傷つけないセルフケア
アレルギーが気になる方の歯茎ケアでは、「炎症を減らすこと」と「歯茎を傷つけないこと」の両立がポイントです。硬い歯ブラシで強くこすると、歯茎の表面に細かな傷をつけてしまうことがあります。
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- やわらかめの歯ブラシで、軽い力で磨く
- 歯ブラシは「やわらかめ」〜「ふつう」を選び、強くこすらず小刻みに動かします。歯茎の表面に細かな傷をつけないことが大切です。
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- 歯間ブラシ・フロスで歯と歯の間を清掃する
- 歯ブラシだけでは届きにくい部分の汚れを落とし、歯周ポケットまわりのプラークを減らすために併用しましょう。
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- 鼻づまりの時期は、こまめに水分補給する
- 口呼吸で口の中が乾きやすい時期は、唾液の自浄作用を保つため、こまめな水分補給を心がけてください。
出血を怖がって磨くのを控えると、かえって炎症が長引く原因になります。やさしい力で磨き続けることを意識してください。
早めに受診したい歯茎のサイン
次のような変化は、歯茎に炎症が起きているサインです。厚生労働省の資料では、歯茎からの出血がある人はどの年代でも4割前後にのぼるとされています。
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- 歯磨きのたびに血が出る
- 歯ブラシやフロスを使うたびに出血が続く場合、歯茎の炎症が進んでいる可能性があります。自己判断で磨きを控えず、一度歯科で状態を確認してください。
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- 歯茎が赤く腫れている
- 健康な歯茎はピンク色で引き締まっています。赤みや腫れが長く続くときは、歯周病の進行や口呼吸による乾燥が関わっていることがあります。
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- 口臭が気になる
- 歯周ポケットに汚れがたまると、口臭の原因になることがあります。口腔ケアを見直しても改善しない場合は、受診を検討してください。
当院は予防歯科に力を入れており、専用のメンテナンスルームで一人ひとりのリスクに合わせたクリーニングを行っています。
アレルギーの症状そのものは、内科や皮膚科、耳鼻咽喉科での治療が基本です。そのうえで口の中の炎症を減らしておくことは、体全体の負担を軽くする一つの手段になると考えています。
よくある質問
Q. 歯周病を治せばアレルギーは治りますか?
歯周病の治療でアレルギーが治ると言える根拠は、現時点ではありません。アレルギーは体質や環境など多くの要因が関わる病気で、治療の中心はそれぞれの専門の診療科です。
一方で、歯茎の炎症を減らすことは、アレルゲンの入り口や全身の炎症を減らすことにつながる可能性があります。アレルギーの治療と並行して、口の中の健康も整えておくという考え方をおすすめしています。
Q. 子どもがアトピー性皮膚炎です。口のケアで気をつけることはありますか?
お子様は大人ほど歯周病が進むことは多くありませんが、歯肉炎(歯茎だけの炎症)は子どものうちから起こります。アトピー性皮膚炎のお子様は口の周りの肌が荒れやすく、歯磨きを嫌がることもあるでしょう。
歯磨き粉の刺激が気になる場合は、低刺激のものを選ぶ、量を減らすといった工夫も一つの方法です。口育士として、お子様の口の発育や年齢に合ったケアの方法についてもご相談をお受けしています。
Q. 花粉症の時期だけ歯茎が腫れるのはなぜですか?
鼻づまりによる口呼吸で口の中が乾き、歯茎に炎症が起きやすくなることが一因と考えられます。花粉症のお薬の中には、副作用で唾液が減るものもあり、乾燥に拍車をかける場合があります。
こまめな水分補給や、就寝中の口の乾燥対策で改善するケースも少なくありません。腫れや出血が1〜2週間以上続くときは、歯周病が隠れている可能性もあるため、一度歯科で確認を受けてください。
Q. 歯科金属アレルギーかどうかは歯医者で分かりますか?
歯科で口の中の状態から金属アレルギーを疑うことはできますが、確定には「パッチテスト」(皮膚に金属の試薬を貼って反応を見る検査)が必要です。パッチテストは主に皮膚科で行われ、判定までに1週間ほどかかります。
金属が原因と分かった場合は、金属を使わない材料への置き換えを検討します。ただし、症状の改善には個人差があり、置き換えによって症状がすべて消えるとは限りません。