朝起きたときに口の中がネバつく。歯磨きのたびに、歯茎から血がにじむ。こうした小さな違和感を、年齢や疲れのせいだと見過ごしている患者様は少なくありません。
当院でも、痛みが出てから来院され、その時点ですでに歯周病が進行していた、というご相談を多くいただきます。歯周病は自覚症状が乏しいまま進むため、自分では気づきにくい病気です。
本記事では、ご自宅で確認できるセルフチェックの項目と、受診を検討すべき目安について、具体的にお伝えします。
歯周病とは、
痛みなく進む
「静かな病気」

歯周病は、歯の周りの組織が壊されていく病気です。
日本歯周病学会では、成人の多くが何らかの歯周病にかかっているとされています。痛みという分かりやすい症状が出にくいため、気づいたときには進んでいた、という事態が起こりやすい病気でもあります。
歯周病が起こる仕組み
原因は、歯の表面にたまるプラーク(歯垢)です。プラークは細菌のかたまりで、歯と歯茎の境目にたまると、歯茎に炎症を起こします。炎症が続くと、歯と歯茎の間にすき間ができます。これが歯周ポケットです。
健康な状態でも、歯と歯茎の間には1〜2mmほどのわずかな溝があります。炎症でこの溝が深まり、3〜4mm、さらに深くなっていくと、歯周ポケットと呼ばれる状態になります。深さは、歯科の検査で1本ずつ測ることができます。
ポケットが深くなるほど、奥のプラークには歯ブラシが届かなくなります。やがて歯を支える骨が溶け始め、進行すると歯がぐらつき、抜けてしまう。ここまでが、歯周病のおおまかな流れです。
自分で気づきにくい理由
歯周病が静かに進む理由は、痛みの神経が関わりにくい点にあります。虫歯は神経に近づくと強く痛みますが、歯周病は骨が少しずつ失われても痛みとして感じにくいのです。
出血やわずかな腫れといった初期のサインは、忙しい日常の中で見逃されがちです。だからこそ、自分の口元を意識して観察する習慣が、早期発見の入り口になります。
もう一つ、誤解されやすい点があります。歯周病には段階があり、歯茎だけが炎症を起こした歯肉炎の段階なら、適切なケアで健康な状態に戻せることも多いです。
一方、骨まで失われた段階になると、元どおりに戻すのは難しくなります。早く気づくほど、引き返せる可能性が高い。これが、セルフチェックを習慣にしていただきたい理由です。
自宅でできる
歯周病セルフチェック
7項目

結論からお伝えします。次の7項目のうち3つ以上当てはまる場合は、歯科での確認をおすすめします。鏡の前で、ご自身の歯茎と歯を見ながら確認してみてください。
歯茎の見た目・出血のチェック
1つ目は、歯茎の色です。健康な歯茎は薄いピンク色をしています。赤みが強い、または赤黒い場合は、炎症のサインかもしれません。
2つ目は、出血です。歯磨きやフロスのときに血がにじむ、固いものを噛んで血の味がする。こうした出血は、歯茎が炎症を起こしているときに起こりやすい症状です。
3つ目は、歯茎の腫れです。ぷっくりと丸みを帯びてふくらんでいる、押すと血や膿が出る場合は、注意が必要です。
口臭・ネバつきのチェック
4つ目は、起床時の口のネバつきです。歯周病に関わる細菌は就寝中に増えやすいため、朝に強い不快感を覚える患者様が多くいらっしゃいます。
5つ目は、口臭です。自分では気づきにくいのですが、家族から指摘された、マスクの中でにおいが気になるといった変化は、一つの手がかりになります。
歯のぐらつき・噛み合わせのチェック
6つ目は、歯のぐらつきです。指で軽く触れて動く感覚がある、噛んだときに浮くような感じがする場合、歯を支える骨が弱っている可能性があります。
7つ目は、歯が伸びたように見える変化です。歯茎が下がると、以前より歯が長く見えたり、歯と歯のすき間が広がったりします。
チェックで
気になったときの
対応と受診の目安

セルフチェックは、あくまで気づくためのきっかけです。自己判断で「大丈夫」と決めてしまわず、気になる項目があれば早めに確認していただくと良いかと思います。
自宅でできるセルフケア
毎日のケアの基本は、歯と歯茎の境目を意識した歯磨きです。歯ブラシを45度の角度で当て、小刻みに動かすと、境目のプラークを落としやすくなります。
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れは6割ほどしか落とせないという報告もあります。
デンタルフロスや歯間ブラシを1日1回加えると、清掃の精度が上がります。ただし、丁寧にケアしても出血が続く場合は、方法が合っていないこともあります。
歯ブラシは、毛のかたさがふつう、またはやわらかめのものが、歯茎にやさしく扱いやすいかと思います。
力を入れてゴシゴシ磨くより、軽い力で時間をかける方が、汚れは落ちやすくなります。歯と歯の間が広い方は歯間ブラシ、すき間が狭い方はフロスと、ご自身の歯並びに合った道具を選ぶと続けやすくなります。
毎日のケアに加えて、規則正しい生活や十分な睡眠も、歯茎の状態を保つ助けになります。体の抵抗力が落ちると、歯茎の炎症も悪化しやすくなるためです。
受診を検討すべきサイン
次のような変化があるときは、自宅での対応だけにとどめず、歯科を受診していただくことをおすすめします。
出血が2週間以上続く、歯茎から膿が出る、歯が明らかにぐらつく、噛むと痛い。これらは、炎症が深いところまで及んでいるサインのことがあります。
歯周病は、一度失われた骨が自然に元へ戻ることの難しい病気です。だからこそ、早い段階での発見が、その後の経過を大きく左右します。
近年は、歯周病と全身の健康とのつながりも注目されています。
歯茎の慢性的な炎症が、糖尿病など全身の状態に関わることが、さまざまな研究で報告されています。口の中の問題は口だけにとどまらないという点からも、放置せず早めに向き合う意味があります。
加えて、喫煙の習慣がある方や、血のつながったご家族に歯周病が多い方は、進みやすい傾向があるとされています。当てはまる場合は、症状が軽くても早めの確認をおすすめします。
当院での歯周病への対応

当院は予防歯科に力を入れており、専用のメンテナンスルームを設けています。検査では、歯周ポケットの深さを1本ずつ測り、出血の有無やプラークのつき方を確認します。
歯石は、歯磨きでは落とせない硬さに変化した汚れです。専用の器具で取り除いたうえで、患者様お一人おひとりのリスクに合わせたケアの方法をご提案しています。
開業以来30年以上、地域の患者様を診てきた経験から、生活習慣まで含めて一緒に考える診療を心がけています。
よくある質問
Q.歯茎から血が出ますが、痛みはありません。受診すべきですか?
痛みがなくても、出血は歯茎の炎症を示すサインのことが多くあります。
歯周病は痛みが出にくい病気ですので、痛くないから問題ないとは限りません。出血が数日以上続くようでしたら、一度確認されることをおすすめします。個人差はありますが、早い段階の方が対応の選択肢は広がります。
Q.セルフチェックで当てはまる項目が1つだけでした。問題ないですか?
1つだけでも、その項目が続いている場合は注意が必要です。
たとえば出血が毎回ある、口臭が長く気になるといった状態は、軽視できません。項目の数だけでなく、その症状がどのくらい続いているかも目安にしていただくと良いかと思います。気になる場合は、自己判断を避けてください。
Q.歯周病は自分で治せますか?
ごく初期の歯茎の炎症であれば、丁寧なセルフケアで改善することもあります。
ただし、歯石がついていたり、歯周ポケットが深くなっていたりする場合、自宅のケアだけで元に戻すことは難しくなります。専用の器具による清掃が必要なケースが多く、自己判断での放置はおすすめできません。
Q.どのくらいの頻度で歯科を受診すればよいですか?
症状がない方でも、3〜4ヶ月に1回の検診を一つの目安と考えていただくと良いかと思います。
歯周病のリスクは人によって異なるため、当院では検査の結果をふまえて、お一人おひとりに合った間隔をご提案しています。
歯茎の小さな変化は、体が出している早めのサインです。気になる項目があれば、どうかお一人で抱え込まず、お近くの歯科にご相談ください。